2011年4月5日火曜日
23年4月5日(火)浪速武道館の精神
ー施主として浪速武道館のコンセプトは何だったのでしょうかー
・ これはもうはっきりしていまして当然「教育目的の具現化」が最初にくるのですが、精神としては「神社神道の学校としてのアイデンティティを内外に示す」ことでした。日本には多くの私立学校があります。ミッション系、仏教系、私立大学系列など様々です。しかし神道系の学校は少ない。殆どありません。それだけに「神社神道系の学校の真髄」を現在本校で学んでいる生徒にもこれから浪速を目指している世代にも伝えたかったのです。
―具体的にもう少し詳しくお話くださいー
・ 本校の校訓というか校是は「浄明正直」といいまして、分かり易く我々の理解の範囲で言えば「清く明るく正しく素直に」と解しています。実はこの浄明正直とは神職のある方々の位階なのですが、この浄明正直の精神が霧雨の様に降りかかっているような雰囲気が醸し出されている建物にしたいと最初から強く思っていました。
・ もう一つは大正12年に旧制の浪速中学校が創立された時代の創業時代の雰囲気が感じられるようなものが欲しかったのです。現在の正門は平成19年に私が着任して直ぐに建て替えたのですが、これも設計のコンセプトは「大正ロマン」が感じられるものとしました。とにかく私は歴史を刻んだ古いものに惹かれます。
―学校法人名を大阪国学院から浪速学院に変更されるとかー
・ 変更ではありません。元に戻すだけです。23年4月1日から本校は「(学)浪速学院 浪速高等学校・関西大学連携浪速中学校」が正式な名称となりますが、これは私が着任以来考えていたものです。創立以来様々なことがあって法人名称も変化しましたが「時は今」と考え大阪府神社にお願いしてご了解を得ました。「創立の原点」に立ち戻ってこの厳しい時代を皆で乗り切って行こうとする「再出発の号砲」みたいなものです。
―要は新たな再出発の拠点がこの浪速武道館というわけですねー
・ そういうこと風にご理解頂けると嬉しいです。
―武道館と武道の関係について少し教えてくださいー
・ これは極めて密接な関係があります。元々日本の武道というのは古事記神話の時代からありますし、有名な「須佐之男命(すさのうのみこと)の八俣の大蛇(やまたのおろち)伝説」などもあります。弓道、剣道、柔道、空手道など仏教の教えよりは神道の教えに近いかも知れません。特に「神事」と結びついています。今残念ながら騒がれていますが相撲もそうですね。「武道を通じて邪悪を祓い人々の安寧幸福を祈るという精神がまさしく神社神道の教え」そのものです。
― それで複合武道館を建設されたというわけですねー
・ 少し補足させていただきますと我々の最終目標は「新校舎建設」です。新たな立地を求めることは出来ませんから、授業をしながら工事を進めていくことが必要です。その為には広くない校地を有効に活用しなければなりません。新校舎の「種地」を作るために剣道、弓道、空手道、柔道の「コンプレックス型武道館」としました。今流行の「シネマコンプレックス」みたいなものですね。
―ところで浪速高校の制服のエンブレムは特徴があるとか伺いましたー
・ そうです。デザインは「三種の神器」を使わせていただいています。「草薙の剣(くさなぎのつるぎ)」「八咫鏡(やたのかがみ)」「八坂瓊勾玉(やさかにのまがたま)」ですね。本校はそういう学校なのです。草薙の剣は別名「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)」とも言われており須佐之男命が退治した大蛇から出たものとされています。悪を払う正義の象徴としてのものでしょうか。
―なるほど、これで昨年6月に完成された浪速ふくろうスタジアムとあわせて一連のインフラは完成ですかー
・ お蔭様でそういうことになります。この住吉の本校には第一グラウンド、それに平成20年に完成したテニスコート3面の第2グラウンド、そして既設の体育館、今回の武道館で住吉区本校の設備は完成しました。それにふくろうスタジアムですから全ての体育教育施設を持つことになりました。
―千早赤阪村に「多聞尚学館」がありますねー
・ ええ、これは運動スポーツではなくて学習合宿の施設なのですが、これを最初に完成させ、ふくろうスタジアム、そして今回の武道館となりました。これらを総じて我々は「教育改革の証:教育トライアングル」としています。本校はあくまで「文武両道」の学校作りを目指してバランスの取れた人材を育成していきたい。生徒の個性に合わせて様々な教育設備施設のインフラが整っていることが私立高校の拠って立つところだと考えています。
―さて武道館の話に戻して、入り口の基礎のある「定礎」に驚きました。「皇紀」と書いてありました。これにはびっくりです。(笑い)
・ そうですか(笑い)。私は国粋主義者でもないし右翼でもありません。ただ日本の歴史と文化いうものを大事にしていきたいと思っています。キリスト誕生に始まる西暦と同じく日本には皇紀という我が国独特の紀元年号があるということを生徒に伝えたかったから書きました。友人の勧めだったのですが大変良かったと思っています。
―私も良く分からないのですが、少し教えてくださいー
・ 簡単に言えば日本書紀編纂以来我が国の紀元を神武天皇のご即位にしたものです。ご即位の紀元はキリスト紀元よりは660年大きな数値になります。従って平成23年、西暦2011年は皇紀2671年となります。私は皇紀を使うことの善悪を今論じる気などありません。ただ神社神道の学校に学んだ本校の生徒にはこのことをさりげなく伝えておきたいのです。それ以上でもそれ以下でもありません。亡くなった私の両親などは皇紀という概念をしっかりと捉えていたように思います。しかし今の保護者の中にもご存じない方が多いのではないでしょうか。
―そして武道館の玄関に入って、もう一度強烈な感銘を受けました。あの真正面に飾ってある「武の一字」には「気」が迸っています。何時どのようにして書かれましたかー
・ そういって頂けると本当に嬉しいです。しかし木彫りをしてくれた大阪欄間の第一人者である山田伝統工芸士さんの力が大きいです。下手な字を見事に補っていただきました。あれは縁起を担いで2011年1月11日、11111と数字が五つ並んだ日に書きました。事務室の職員が用紙を3枚用意してくれ一挙に3枚書きましたが結局1枚目を選択しましたね。
―どうして「武の一字」になったのでしょうー
・ 実は正面玄関のしつらえには様々なアイデアがありました。神棚を持ってくるとか、優勝カップや優勝旗などを飾るボードをつくるとかです。しかし私は工事が進行するにつけここには「武の一字」、それも出来るだけ「大きいもの」と思い始めました。ここは「武道館」ですから精神としては「武士道精神」がきます。古事記の話を前述しましたが日本は古来「武の国」であり、最後まで武を行使しない「平和の武」です。そのような思いを込めて書きました。そう考えたら「武の一字」で十分でした。
― 各武道場にも武の字が入っていますー
・ あれも一種の木村流こだわりですね。徹底して「武の精神」を込めたのです。柔道・空手道には「練武館」、剣道場には「尚武館」、弓道場には「玄武館」と名づけました。悩んで悩んで、迷って迷って決めました。これらの字は武の字よりも前に書いたような気がします。決断したらすっきりしました。
―さて次は和室についてお聞きします。大広間とお茶室ですねー
・ 私は武道館といっても、大切なことは武の鍛錬だけをする場所だけではいけません。「文武両道」が必要です。武道館の和室は文を代表するところ、実は「本校の精神的な真髄の場所」という捕らえ方で発注の時も最重要場所としました。ある面、練武館、尚武館、玄武館よりは大切な場所かもしれません。「学院神社に継ぐ神聖な場所」と考えています。
―それにしても広くて大広間は何畳ありますかー
・ 40畳の大広間に12畳のお茶室です。この大広間は主体として「雅楽部」が練習する場所として使いますが、「修養室」の目的も兼ね備えています。本校には2年前まで修養室がありましたが今は仮の図書室になっています。生徒が増えて来たので今までの図書室を急遽教室へと衣替えをしたのです。
―ここでどのような教育を考えておられますかー
・ 家庭科の実習場所にもなりますし、女生徒の作法教室にも使えます。合宿の宿泊場所としても利用でき、これは使い道の多い部屋になるのではないでしょか。先般は理事会・評議員会をこの和室で行いました。大変評判が良かったです。
―全てを含めて「洗心亭」と名づけられたとー
・ これは本校名誉理事長で道明寺天満宮の南坊城宮司が「心を清め洗う場所」として洗心と名づけられました。それを表千家の千宗室お家元が亭の字を考えてくださり洗心亭となりました。大変名誉なことと喜んでいます。
―驚くのはあのお茶室の杉の板絵の古事記の世界です。これには感動でしたー
・ 既に申しましたように本校は神社神道を建学の精神に持つ学校です。それだけに私は「日本の歴史」を伝えていきたいとこの学校に赴任以来考えてきました。混迷の時代であるが故に今日本人は「日本人の原点」を忘れてはならないと思いました。
・ 日本という国柄は2600年以上に亘って原点は「古事記・日本書紀」の世界から国つくりがなされてきたのです。森羅万象すべてに神が宿り「五穀豊穣」を祝い自然の持つ力に感謝することが日本人の心でした。日本は「神々の国」なのです。
・ そのような観点から建設前から武道館には和室とお茶室を絶対に設けることは決めていました。それも最も良い場所にです。そしてこの茶室の襖に替えて杉の板目に古事記の世界を板戸絵として描いて貰うことを決めていました。
―お茶室と言ったら詫び寂びの世界ですよねー
・ そうですね。だから私がこのアイデアを出した時には当初関係者は驚いていました。しかし21世紀にあって新しい形のお茶室があっても良いのではと考えました。今から400年前の利休の詫び寂びを更に900年一段遡ったところに基点を置きたかったのです。古事記は712年に太安万侶が編纂した歴史的事実であり、天武天皇時代の古代史最大の内乱である壬申の乱から日本史は記録が残っています。
―それにしても迫力がありますねー
・ 苦労したのは描いて頂く画家の先生を探すことでした。担当と共に探しに探しようやく5人目で大阪芸大出の高山正宣さんという素晴しい日本画家と出会いました。さあ、古事記の本を何冊先生にお渡したでしょうか。数回に分けて15冊だったと思います。先生に古事記を読んで勉強して貰う為です。
―ストーリーはどのようなものでしょうかー
・ 日本誕生から、天照大神様の誕生とお隠れ、須佐之男命の八岐大蛇伝説、倭建命(日本武尊)の東征、神武天皇の即位と古事記の世界を絵にしたものです。私は大変良く出来た傑作であると評価して高山先生には大変感謝しています。
―お茶室の板戸には漢字が書かれています。あれは何でしょうかー
・ 「大祓詞(おおはらえのことば)」といいます。一般の人には馴染みが薄いと思いますが神社で神職が祭祀で用いる「祝詞(のりと)」の一つで極めて重要なものです。私自身も難しいものでよく理解できていません。自分の犯した「罪穢れ」を消滅するための祈りの言葉だと私は理解しています。知人の書道家に書いて貰いました。
―建物全体を通してこの武道館に私は「清冽」というものを感じましたー
・ そのように評価していただけると有難いと思います。私は「品格」ということを重んじています。品格ある生徒の教育に品格ある教職員、それに品格ある校舎群が必要です。徹頭徹尾明るくて品格ある建物を目指しました。神社神道の教えそのものが前に説明しましたように浄明正直です。これは言い換えれば品格ある人間を目指すということです。
―さて次の目標は遂に新校舎建設ですねー
・ その前に一工事があります。種地作りにクラブ活動用の部室、カフェテラス、予備教室のための工事が7月一杯までかかるでしょう。これは今あるものの代替です。これで全て新校舎の準備が整うことになります。しかし新校舎のイメージはまだ固まってはいません。
―どのような新校舎を考えておられますかー
・ 早速7名のセンスある教員で「新校舎建設チーム」がスタートしました。まず「耐震強度」が万全のものにすることは当然です。そして教職員にとって使い勝手の良い、生徒への教育効果が高まるような21世紀型のIT武装されたシティスクールを標榜しています。是非良いものを作りたいと思っています。
―具体的なスケジュールはー
・ 過日理事会で決議されただけの段階ですからまだ固まったものはありません。出来れば本校の創立90周年となる平成25年度中に完成できればと思っています。丁度この年は「伊勢神宮の式年遷宮の年」に当たっていますから、恐れ多いことですが本校にとっても未来永劫大きな記念になると思っています。
―最後になりましたが今のお気持ちはー
・ 東日本大震災にて被災された方々には申し訳ない思いですが、正直「幸せだ」としみじみ感じています。着任した4年前のことを思えば感無量です。これも教職員が頑張ってくれたからです。心から彼らに感謝し、私は浪速の教職員を誇りとしたいです。そして大阪府私学・大学課、大阪府神社界、PTA,同窓会はじめご関係の皆様のおかげです。心から御礼を申し上げたいと思っています。
・ 武道館完成で一つの節目は迎えました。今までのことは既に過去のこととして、これからは心を一新して次の目標である「新校舎建設に向かって努力」して参る決意と覚悟をしています。。